文京うまれ

自由と知性

前医へのリスペクト

誰が検査しても見つかる癌を見つけて治療のために紹介する。

紹介先の先生が、「これを見つけてくれた先生はすごいね」と患者さんに説明をする。

次回患者さんがクリニックに受診して、「先生ありがとうございました」と言う。

「いえいえ、人と同じことをしただけなのでお礼を言われるようなことではありません」と答える。

 

白々しいような気もするのだけれども、患者さんは悪い気はしないだろうし、私もくすぐったいながらも恐縮はするし、紹介先の先生はいい人だなあと思うだろう。そして患者さんと私と紹介先の先生は良いチームになり、この先癌の治療で少し困難があったとしても協力して頑張ることができる。

 

 

 

逆の立場で、私もいろいろな患者さんを紹介される。全く知らない先生は少なくて相手の人となりは知っているつもりだ。患者さんとお話するときにも、

「あなたの主治医のS先生は特に呼吸器に造詣が深くて勉強させて頂いているんですよ」と言ったりするのが通例だ。それはS先生へのおべっかではない。実際には自分は患者さんを紹介されるのは嫌いだし。(患者さんがさらに増えるだけだから)それでもS先生の呼吸器疾患に対する態度はリスペクトしているから本当のことを言っているだけだ。しかし私のそういう態度は結局は患者さんの信頼を得ることにつながるようだ。




こういうのは医者独特の面倒臭いコミュニケーションスキルなのかどうかはわからない。でもそれが出来ない先生も多いのは事実だ。
紹介というのは患者さんがある医者から別の医者に担当が変わることを意味し、それなりに不安があるだろう。患者さんを正面からしっかり受け止めて「引き受けましたよ」と伝えるには相手の先生をほめる、という方法は古典的だけれど良い方法だと思う。それ以外には自分の実績をとことん自慢する、という方法がある。それをしないで、「はいはい手術すればいいんですね」とやってしまう先生が意外といるわけだ。

 

 

そして「紹介先の先生がそっけない」と私に泣きついてくる患者さんもかなり多い。インフォームド・コンセントというのがあるけれど、あの説明はかなりその場の雰囲気が大切で、白けたムードの中での説明は患者さんの頭に入らないし、「わからないけどサインさせられた」という気分になってしまいがちだ。そこで私は「先生もお忙しいので私が代わりに説明しますね」と彼がしたであろう説明をもう一度する。そして「とても手術が上手だからお任せしなさい」と言うのだけれど。

 

 

医者がヨイショしあう姿を見るのはあんまり好きではないのだけれど、実際に患者さんの立場からみればヨイショしあってるほうが嘘でも安心なのかなあと思った次第。