文京うまれ

自由と知性

高脂血症の治療はするんだよ

高脂血症の薬を今回から出すつもり」と俺は言った。

「前回そういうお話がありましたね」

「もう一度確認すると、あなたは自己免疫疾患があって肝機能障害があります。そして他の理由がなくコレステロールが高いです。おそらくHMG-CoA還元酵素阻害薬で下がるでしょう。私のポリシーとして高脂血症の一次予防はコストがかさむからしません。しかし」

「はい」

「まず第一の理由ですが、コレステロールは白血球の燃料のようなものですが、HMG-CoA還元酵素阻害薬はこの白血球の過剰な活動を抑制してくれる可能性があります。実際にあなたのような肝障害の方に投与すると半数程度はALTが改善する事を経験します。この薬の良いところは抗炎症作用とされていますが、それは確かにそうらしく、サイトカインストームを抑えてくれる可能性は感じています。第二の理由ですが、計算しますとこの薬を出してもあなたの医療費はひと月あたり900円しか増加しません。あなたは3割だから270円余計に支払うことになります。使うのはジェネリック薬で、すでに自己免疫疾患で2月に1度は通院中ですから、追加されるのは純粋に薬代だけです。うちは院内処方なのでそれだけです。院外だと倍ぐらいになりますけれどね。一石二鳥でしかも安い。この二つの理由が今日あなたに薬を出そうと思う理由です」

「はい。それは2カ月前にも仰っていました」

「全く肝機能が改善しないならば投与する意味は半分になります。投与した時の肝機能の改善も見たいし、そして薬の副作用もチェックするため一か月後に採血をしたいのです。もしも前回処方すればあなたを連続して採血することになりましてそれは申し訳ない。来月採血ならば肝機能のチェックとしてもちょうど良いタイミングですし、あなたの痛みの負担も減りますので前回処方するのはやめたのです。今日から処方を開始します。一か月後に採血だけしに来てほしいのですがよろしいですか?」

「それで前回処方がなかったのですね。わかりました」

我ながら小難しい言葉をひねくり返していやらしいなと思うんだけれど、実際HMG-CoA還元酵素阻害薬には抗炎症作用があるようで、ただの脂肪肝(NAFLD)の人に投与しても結構効果があります。ということで、医者は二枚舌だ、という話。