文京うまれ

自由と知性

禁煙外来

患者さんの身体に触れている時が、ある意味チャンスだ。

脈をとるとか、お腹を触るとか、そういう瞬間だ。

 

「あのさあ、あなたに禁煙を決心させるには、俺はどうしたら良いんだろうか」

「やっぱりだめですか」

(割りと普段患者さんが感動する外来をしているので、この時点で「やめませんから」とか言い出しそうな人は逆に俺のところには寄り付かない)

「考えていたんだけど、割りと珍しい病気、例えば膀胱がんとか、あるいはすい臓がんはしょっちゅうだけれど、そういう病気を見つけてしまった時にね、『俺はあなたに禁煙するよう説得できなかった』って責めてしまう自分がいるのよね。しかも割りと激しくね。そうすると落ち込んでしまうわけだよ。だから今例えばあなたに禁煙をしてもらいたいってのはあなたのためでもあるかもしれないけれど、自分のためでもある」

「先生の気持ちは有り難いんだけど」

「あとはJTに対する憤りとか、恨みとかかな。あるいは呪いか。だってあなた方にタバコ吸わせているのは彼らでしょう?俺自身の今までのうんと悔しい思いとか悲しみだとかを全部彼らにぶつけてやりたい、って思ったりするけれどあまり良い感情ではないのでここで話すべきではなかったね。とにかく、あなたに会うたびに思うことは、あなたがタバコをやめる手助けが出来ないかなってこと」

「最近良い薬があるそうですね」

「そう、年一回禁煙に保険でチャレンジが出来るってやつね。これは良い。最近の禁煙は根性論じゃなくて、褒めて、止めさせる。あとは機械でちゃんと禁煙できてるかなってモニタリングもできるので維持しやすいよね。医者ができるのはそれだけじゃない。猛烈に太っちゃう人がいるよね、すごい食欲で。そういう問題とか不眠だとか、ありとあらゆる困った問題をね、一緒に解決しましょうねって、そういうのが医者の役割だからさあ。だから決心してほしいのよ」

「考えます」

 

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