突っ込み入れない
「先生大変だったんですよ」
って患者さんが言ったときに、
「どう大変だったんだい?」と軽く返す、という事はしないほうが良い。
「お伺いします」だとか、そのまま黙って目を見るのが良い。
というのは、そのあとに、
「母が、倒れていまして、救急車を呼んで病院に行って、でもなんでもないって言う事で帰ってきたんです」
などという展開が待っているからで、それでもなお、
「それは大変でしたね」などとは言ってはいけない。
「ふむ、帰ってきたんですね」だとか、そのまま黙って目を見るのが良い。
「で、数日してからまだ苦しいっていうので病院に連れていきました」
「ふむ」
「それで尿酸が12であるとか、血液の濃さが6?であるとか、そんな説明がありましたが、でも大丈夫じゃないか、という事で帰ってきました」
「それは、血液の病気なの?」と、つい突っ込んでしまった。まだ未熟な私。
「それで翌朝、冷たくなってたんですね。119番したら、『人工呼吸してください』とか言われて、ほんと大変だったんですよ。でももう手とか硬くなっちゃって。それでそのあと警察だとか、ほんと大変だった」
「それはご愁傷さまでした。あなた大丈夫ですか?」
「気が付いたら昨日まで4日ぐらい寝てなかった。今日は眠れるかな」
「そう祈ります」
みたいなオチだったりするからだ。
どうして医者は威厳があると思われるのか、とか、
いつも難しい顔してるのか、という不思議の理由はこれだと思う。