文京うまれ

自由と知性

あなたが信頼している先生は、実はあなたの事を苦手かもしれない

患者が来たのでいろいろ話を聞いても過去の自分の説明との整合性が取れていないのでこの人はコミュニケーションに問題がある人だ、というのがわかった。

 

そして自分の記録にも「…勧めたが、拒否的である」であるとか、「…意図的に持参せず」などの言葉が並んでいる。なるほど、この人は我を通すタイプであって、まるで自分の言うことは聞かない人だったなあということがだんだんと思い出されてきた。

 

さてこの人には問題点が3つほど残っていて、ひとつひとつについて問題を解消せねばならなかった。そのためには今回はこの人の我を通すわけにはいかないのだ。

 

「あなたはいつもゴーイングマイウェイ、あなたの理論を通そうとしますね。以前にも同じ説明をしたのに覚えていないと仰る。しかしこの説明をしたのは実は3度めである、ということがカルテを見るとわかります。あなたは私をなんだと思っているのだろうか。そして2年も経ってどうして今ここに受診されているのでしょうか」

 

「私は先生を信頼しているし、下らないことでは来るなと言われたので来ませんでした」

 

「信頼、という言葉を間違って使っておられるようだ。おそらくあなたにとっては私はわがままを通せる医者、という意味合いがあるのだと思います。例えば検査をしなければいけない時に、私はあなたと駆け引きをします。あなたの意思を尊重しつつも必要な検査はしておきたい。しかし、今までの数年間であなたはことごとく私との駆け引きをせずに私の意見を一度も聞き入れなかった、とあります。その時の私の気持ちをあなたは考えたことがないかもしれないが、大変な落胆があるのです。私はいつも患者さんのことを考えている。それはわかりますね?」

 

「わかります」

 

「そして何度か落胆を繰り返して私はいまどういう気持ちかというと、あなたには何ももう勧めたくない。そういう状態になりつつあるのですよ。もしもあなたが私を信頼しているのならば、あなたは私の意見を注意深く聞いて聞き入れるべきである」

 

「そうでしたか。そんなつもりはありませんでした」

 

自分は、いわゆるトンデモ、と言われるような人々の親和性が極めて高いことを認めざるを得ない。それは自分の性格に起因するところであるけれど、徹底的に相手の気持ちを読む、コールドリーディングの技術に長けているからである。ホメオパシーだとか自然なんちゃら、SOD、免疫療法などと言った人々の気持ちを読んで、ぎりぎり死なないところでコントロールする、というような事は出来る医者は少ないし、彼らが本当に行きどころが無くなった時に頼れる場所があるってのは大切なのかもしれない。でも正直、面倒。

 

5年ぐらいで彼らは自然とお金が無くなってきて(吸い取られて)どうせこっちに戻ってこざるを得ないわけだけれど、しょうがなく標準治療してるってのは見えるのでやっぱり面倒くさい。ただ便利、じゃなくて本当に信頼してくれて良いと思うことはやってるつもりなんだけどねえ。