文京うまれ

自由と知性

虚無への供物

人が読んでいる、
特に読書好きだとか、
知恵者の人が読んでみる、
という本は読んでみる、
そういうスタイル。

民俗学だって、宮本常一オンリーなのはそういう理由。

1955年が舞台なんだけれど、
旧制高校の話、東京の地名、関東大震災前後に自分の祖父母が生活していた場所に感じるある種の郷愁、最近行くことが多い紀尾井町、ゲイバーは行ったことないけれど割合慣れ親しんだLGBT文化、戦争、自然災害、宗教、そして推理小説マニア。登場人物のそれぞれに「ああ、こういう友達いるいる」と、ある程度年齢を重ねてきたので理解しやすい部分もあり、奇書と言われてもドグラ・マグラほどわかりにくくもないし、いや全然わかりにくくないし、アンチ・ミステリーと言われれば確かに普段ミステリーを読まない人間ほど納得しやすい部分もあった。

自然災害、あるいはそれに絡んだ二次災害を人災と呼ぶことは簡単だけれども確かにそこに漂う虚無感は大きすぎて、心の整理をつけぬままに時間(忘却)が癒すのみというモヤモヤ感を感じたまま人間は生きていくんだろうな、とは思った。