文京うまれ

自由と知性

良い医療崩壊と悪い医療崩壊がある

TEDとTEDexは全然違うものだ。

TEDexは学芸会レベルと言っていいけど、TEDのオーディションも兼ねてるから良いプレゼンもあるよね。

 

夕張市に赴任していた若いお医者さんがプレゼンしていたのが医者の中で話題になっていた。概ね好意的に受け入れられていたと思う。だってこれは良い医療崩壊だから。

 

夕張市はすごい勢いで人口が減っていて、住民基本台帳によれば、人口わずか9800人であってしかも200人は死亡で、200人は転出によって人口が減るという具合で大変なところである。でも冷静に考えると5000人の65歳以上のお年寄りがいたとしても毎年220人亡くなるというのは結構多くて、病気の人がみんな逃散してるとも考えられないのだ。むろん炭鉱の街なので極端に肺の病気が多かった時代があったことだろうからその影響が消えつつあるという事が死亡率低下につながっている可能性はあるんだけれども、医療崩壊すると無駄な医療を患者さんの方から遠慮するというムーブメントが起きれば、良い医療崩壊が起きると予測が出来てとてもほっとしたわけだ。

 

(否定的な意見を言う人がいたようだけれど、内科は普段亡くなる方を見送るのが仕事で、100人の高齢者(65歳以上)がいたら毎年2ー4%ぐらいがお見送りかな、ってのが感覚的にわかっている。なので5000人の高齢者のうち220人が亡くなるというのは多いな、と感じるしその中で癌や心筋梗塞での死亡率が下がっているということは必然的に脳血管疾患やいわゆる老衰で亡くなっているのだろうから自然な看取りが多いのだろうと感覚的にわかるわけだ。これを説明不足だと言うならば、カバーしなかった我々内科医が悪いかもしれない。いいね、いいね、と言うだけじゃあ専門外の人々はわからないだろうし。ついでに言えば彼は在宅医療の達人に基礎は叩き込まれているのもプロフィールを見ればわかる)

 

悪い医療崩壊のシナリオはクレーマーと訴訟が入り込むことだ。離島で病気になって助からなかったから医師と自治体に訴訟を起こすというような事が起きているが、これは悪い医療崩壊のモデルケースとなっている。現在の医療訴訟のレベルはとても低いので何ら医療の改善につながらないという欠点がある。機械的に金銭での保障をするわけでもなく、医師へpunishmentしたいとの遺族感情を反映しているのが日本における訴訟であるようだ。これは諸外国とはずいぶんと違う。日本の医師が極端に訴訟を嫌うのはフェアじゃないと感じているからだろう。

 

そして忘れちゃいけないのは、高齢者医療で儲けたい医師と、医療周辺の企業の意図だろう。言葉巧みに高齢者を惑わせて、彼らが諦めの境地に達するのを邪魔してくれるんじゃないか。

 

自分が住む地域では、一次医療崩壊はもうすでに起きた。つまり「良医」は少なく、患者全員が何かしらの不満を抱えている、という状態だ。これは悪い医療崩壊の第一章、みたいなものだ。出来れば団塊の世代より年齢が上の人々が、諦めの境地に達してくれれば、良い医療崩壊へ進むんだろうと思うのだけれど、さあ果たしてうまいこと行くのかどうか。

 

夕張市の先生はたった1年か2年で九州に帰ってきちゃってるようだし、夕張市の役人の平均給与は道内で一番高い。TEDex用に夢を語ったよ、みたいにも思えてしまうんだけれど、まあ真夏の夜の夢でも良いかなあ。