文京うまれ

自由と知性

EBMのデザインについて考えてみよう(なんでも下手な人は貴重だ、って話)

自分はNATROM先生を尊敬している。

彼が提示する疑問はいつもいちいち考えさせるものが多いから。粘着されても弾き返す精神力にも痛み入る。

 

静脈穿刺デバイスについて、自分が臨床研究をデザインするならどうするか、というのを考えてみる。なぜかというと、今、学会の抄録を英文で書かなくちゃいけなくて、めちゃくちゃそれが嫌だからだ。ちなみに数人の先生からこの機械の評判は聞いていて、「使えるね」という感想を得ている。

 

まずこれ


Efficacy of AccuVein to Facilitate Peripheral... [Acad Emerg Med. 2014] - PubMed - NCBI

 

そもそもAccuVeinは、血圧の下がった、血流の少ない患者にはどちらかというと向いていない事ぐらい、原理を知っていれば自分だってわかる。なので救急の現場で役立つ、というデザインは行わない。救急外来は向いておらず、普通の採血室、あるいは外来化学療法部、あるいは放射線部で行うだろう。ランダム化は良いとして、その前に患者からの自己申告で(自分は採血、あるいは静脈の確保が難しい)という人だけを対象者とするだろう。ほとんどの患者は簡単で、それらを母集団としてしまうと差がでないからだ。そして、穿刺にかかった時間もそうだけれど、その標準偏差も比較するかもしれない。標準偏差が小さいほどバラツキが少ない良好な手技と言えるから。患者の満足度も指標にするだろう。

個人的にはMRIDTIなどの原理を用いて、神経も一緒に投影してくれないかなーと思ったりはする。動脈についてはソフトウェアで何とかなりそうな感じではある。拍動するのは赤表示にすれば良いんだもの。デモを見る限りでは動静脈ごっちゃになってない?

 

つぎはこれ


Near-infrared light to aid peripheral intravenou... [Anaesthesia. 2013] - PubMed - NCBI

 

これは小児科手術室での静脈確保について、75%内外であってあんまり差がないよ、という結論になっている。手術室に入る患者も基本的には状態が悪い子が多くてAccuVein向きではないのはおいておいて、この場合には熟練、慣れによって成功率が上がるかどうかという線でデザインするかな。上から二次元的に見るだけじゃ、成功率が単純に上がるとは思えないのであり、三次元的に手技を補助するための工夫も研究しておきたいところ。

 

最後にこれ


A randomized controlled trial comparing the... [Paediatr Anaesth. 2012] - PubMed - NCBI

 

これも小児科手術室。患者さんの肌の色は明るい色、とされている。これも一発での成功率は75%内外で差はない。上の論文もそうだけど、小児科手術の麻酔師はエキスパートだろうから、差が出ないかもしれないなあ。ではsecond attemptの成功率はどうなのよ、とは思う。

 

要するに3つの論文は、「静脈確保する側が、『難しいかな』と考えている現場」を舞台にしているという特徴がある。その心理はもちろんわかる。医療者ってのは難しい手技を易しくしたいと考えるものだから。そちらの方がイノベーティブ。

 

一方でしかし、患者側からするとこうした難しい現場よりは、もっと簡単な現場にニーズがあるのではないか。

 

個人的には、「あのナースがいや」(外来化学療法部で)、「あの先生じゃないと入らない」(放射線部で)というような患者の声を聞いていると、そういう条件でデータを取ってみたいとは思う。

 

見えれば入るのか、という問題については透析病院に通う患者さんの嘆きを聞くと全然そうじゃないということは火を見るより明らかだ。下手な人ってほんと、力が伝わるベクトルとか理解してないから。ピピピピッってパーソナルデバイスがダメ出ししてくれる時代が早く来たほうが良い。

 

とにかく、時代を良くするには下手くそな人が最大の先生だ。注射が下手な人はどんどんこうした治験に協力すべきだと思う。下手くそにこそ学ぶものがある。

 

ということで、書き終わっちゃったからまた抄録かよ。えーん。