文京うまれ

自由と知性

悲しいね

自分は近藤某みたいに、医者になって途中から趣旨替えをして原理主義者になってるような人間は信用はしてないけど、そんなにガチガチに治療を勧める方でもない。

 


父が亡くなった 膵がんだった

 

俺の患者が、

「先生、すい臓がんってわからないのかい?」と聞くので、

「わからないねえ、一番悔しい思い出が多いよ」と答えると、

「親戚なんだけど、入院して一日しかもたなかったんだよ」と声を震わせていたのが重なってしまった。

 

自分は、増田のお父さんが医療を信用していなかったとは思っていない。自分の戦い方として、手術オンリー、抗癌剤は嫌、という方針は最初からあったのかもしれない。ゲムシタビン、S-1の登場は、明確に生存の中央値を伸ばしただけでなくて痛みなどの自覚症状を明らかに改善させるし外来での治療が可能であるので、手術不可能なすい臓がんを見つけても、家族と一緒にすごす数ヶ月は確保が出来るという意味で昔より良くなったと感じている。FORFIRINOXという新しい化学療法は余命は伸ばすかもしれないがQOLを悪化させるという報告があり、その適応の選択はなかなか難しいのが現状だ。日本人は化学療法を嫌がる人がとても多い。アメリカで興味深かったのは、あれだけ痛がりでなんでも麻酔してくれというあちらの人が化学療法の吐き気なんかは平気のへっちゃらだという事だった。あれは一体なんなのだ。目的がはっきりとしていれば、辛いのは耐えるよ、というメンタリティーなのだろうか。逆に日本人は痛いのは我慢するのに化学療法は嫌だという。例外は乳がんの人たちで、彼女たちの受容性は高いように思う。やはり平均年齢が若く目的意識が違うのだろうか。

 

患者さんが意思決定する時に参加しなかったご家族は、たとえ不本意ではあってもその決定を最大限尊重してそれを理解しようとしてあげて欲しいといつも思っている。家族内の不協和音は患者さんを蝕んでしまうから。奥様がご主人に寄り添ってあげていたようで良かったと思う。

 

話は戻るけど、俺の患者とは、医療は怖くないんだよ、という事や、でも運命に無理に逆らうと良くないこともあるよ、という事や、神様が微笑んでくれなかった場合でも緩和の方法などやり方は沢山あって、俺達は常にあなた達に寄り添ってるよ、という事を常に話す。それは死生観の問題であるけれど、そういう話はネットには転がってはいないよ。

 

俺のところには毎日沢山の癌の患者さんが来る。そして患者が求めるのは俺の正しい見積もりなんだろう、と思う。ステージ3ですい臓がんの手術をした場合には非治癒切除という事になるんじゃないか。そのまま化学療法をしない場合は、切除不能すい臓がんとほぼ同じで3-4ヶ月程度ではないかと思うので、手術後5ヶ月を生き抜いた増田のお父さんはとても頑張ったと思う。その頑張りに敬意を表し、ご冥福をお祈りします。