文京うまれ

自由と知性

感心した話

その人は、職人肌の初老の小柄な男性で、
色は浅黒く、昔はタバコも酒もやっていたようだが、
最近はタバコもやめ、酒もほんのちょっと。
歯はすでに全部なく、なかなか可愛いのです。

「どうしたの?いつから?」
「女房に風邪うつされちゃってさあ」
「いつから?熱は?」
「3日前から。ないね」
「咳だけ?」
「あと鼻水かな」
「音聞くよ」

「タバコ吸ってる?あ、吸ってたんだっけ」
「そう。吸わないよ」
「なんかさあ、肺の音がかたいんだよね。だから、咳がちゃんと出せなくて、風邪がひどくなることがあるんだよ。だから抗生物質を使わせて?」
「いいよ」
「じゃあ、抗生物質クラリスっていうの出すから。あとは痰を出したりする薬」
「どういうふうに飲むの?」
クラリスは一日2回、その他は3回かな」
「難しいねえ。わかんねえよ」

こういう一言はとても大切だし、うれしいし、物事の本質がわかってる。

「そっか、じゃあさあ、全部同じ薬の袋に入れるから、一日2回でどう?」
「ならわかるな。3日ぐらい?」
「ううん、5日」
「わかったよ」
「高熱が出た時、痰が汚い時、苦しい時には写真を撮るから絶対来てね」
「わかったよ」

クラリスはバイキンを殺すと言うよりはむしろ、タバコを吸っていたこういう人の痰が良く切れますように、っていう目的で出す薬。
たぶん風邪だから、ひどくさえしなけりゃ良いのです。だから一緒に飲む薬も、ムコソルバンと麦門冬湯とレベニンぐらいにした。3回じゃなくて2回でも全然かまわないと思ったし、患者さんの言うとおり、一日2回の方が間違えないものね。