文京うまれ

自由と知性

ポジティブさを作る

例えば高異型腺腫という、癌に近いポリープが過去にあった人がずっと内視鏡検査を受けなかったり、ピロリ菌を除菌した人が以後全く内視鏡検査を受けないことはある。「検査が嫌いですか」「先生のところの検査は嫌じゃない」「ではどうして受けないの?」「元気だから」「そうだね元気だね」という不毛な会話にも慣れました。高血圧かなにかで通ってくれている人は年間6回から12回は説得のチャンスがあるので良いです。

リスクがあるのに放っておいた人は確率的に癌が見つかることが多く、しかし癌が見つかると彼らはそれが想定外すぎてなかなか受け入れられません。では彼らは検査を受けなかったことを後悔するかというとそういう人は見たことがなく、単純に癌である自分が想像できないだけらしい。たぶん後悔はしないんだろうと思いつつ、もしも検査を受けなかったことを後悔させてしまったら可哀想な気がするので、検査をなかなか受けなかったことについては議論するのは避けたい。

そこで何をするかというと、説得して予約をして検査に来院した時に、さも彼らが自発的に検査を受けてくれた風に記憶を差し替える。「今日は検査なんですね、ちゃんと定期的に検査を受けるなんて良い心がけですね」などと。その時に「先生がしつこいから」と答える患者も皆無なので、たぶんそれで記憶の差し替えは成功してるんだろうと思う。

そうして癌が見つかった時に、もちろん彼らは最初キョトンとしているけれど「検査を受ける選択は正しかったと思います」などと言うと頷いていて、たぶん自発的に受けた検査で癌が見つかった、という風に記憶が作られたと思うので、それはポジティブさへの第一歩じゃないかな、と勝手に思っている。茶番と言えば茶番だけれど。