文京うまれ

自由と知性

同調させなさい

親が癌になった、自分も胃が痛い、と来院する人があまりにも多い。

それで話を聞いていると、胃が痛くなる理由は、患者である親とぶつかっているからである、大抵は。

しかも病気になった当人がのんびりしているとか、家族の思った通りにしないとか、そういう事でイラツイているようなのだ。うーん、自分の周りには絶対ない事だ。

おいおいちょっと待ちなよ。癌は治らなくちゃいけない義務はないんだし、患者の理想的な振る舞いなんてものがあるわけでもない。ましてや採点する必要もない。勝手に価値観を形成しているが、あなたのそれは根拠がせいぜいマスコミだろう?がんばれとか言うのは医者に任せたらどうか。

「じゃあ親に好きにさせたら良いんでしょうか」って大抵は言うので、「そうじゃなくて、あなたの親が何を考えているのか、心を同調させてみなさいよ。別に好きにやってるわけじゃないかもしれないし」と言う。

最初は僕に何を言われたのかわからなくてきょとんとしてるんだけど、次回会った時には「元気になりました」とか言ってる。患者とぶつかってしまったら相手がどうしてそういう思いに至ったのか、その人生を、とりあえず家族なんだから過去は知ってるだろうから追体験してみると、まあ自分でもそう振る舞うだろうなと同調できるんではなかろうか。例えば自分が外来で5分10分患者と話すだけでも、この患者の振る舞いは全く理解できないと思うことは今までないわけで、それとは情報量が違うわけだから、よほどあなたの考え方が根本的に違うことがない限りはなんとなく親の考えは見えてくるんじゃないだろうか、というアドバイスだったわけで。

価値判断基準が偏っている人はそういう事で悩みやすいみたいだ。誰でも偏りはあるんだけれど、偏りはあるもので、それを戦わせる必要もない、という事がわかっていないとストレスになるようだ。政治家じゃないのだから、それはしなくて良い。