文京うまれ

自由と知性

エコー

自分にとってはエコーは、考える自分の脳以上の存在かも知れない。

 
急性胃炎を疑ってエコーをした場合、むろん腹部全体を見るわけですが、
例えば、「ああ、この胃はピロリ菌がいないな」とか、「いわゆる急性胃粘膜病変とか、胃癌はないな」とかわかりますし、
 
この間は急性肝炎がわかりましたし。
(急性肝炎は腹痛が主訴であることがあります)
 
この方の場合は、下腹部を見たときにちょっと子宮が見えづらく、
そこで手を止め、心眼交えて見つつ考えました。結論が出ないため、
「(子宮の内膜の有無を見るとわかるのですが、)生理が来る前兆がないのですが……(なにかヒントを下さいの意味)」と言いました。
 
すると若い方ですが実はもう生理が止まりかけていると教えてくれました。
 
となると、補充療法をするかどうかを考えなければいけない。
今の所その方は人間ドックでは脂質とかに異常が出ていないそうなんです。
 
補充療法をする利点は、脂質代謝、糖代謝などの点でアンチエイジングになる、
更年期症状が抑えられる、骨粗鬆症が予防出来るなどであり、
欠点として乳癌のリスクや子宮体癌のリスクをあげるだろうことだと思いますが、
婦人科の先生が補充療法をしつつ、しっかり乳癌もチェックできるかというと少し疑問符がつきますし、
骨量については、季節変動やら、機器による誤差やら、2次性の骨代謝異常などを総合的に考慮してフォローしている医師がどれだけいるかと言われれば、あまり期待は出来ません。
しかも補充療法を目的に、婦人科、乳腺科、内分泌科(あるいは整形外科)にかかるというのでは、
患者さんの利益を相殺しかねないという難しい問題があって、
乳癌が8人に1人のアメリカでは補充療法は下火になりつつあるようだと、
そんな話をしていました。
 
最初患者さんは大きな病気はないと仰ってましたが子宮外妊娠の既往があって卵巣を片方切除したことを教えてくれました。なるほどそういう影響もあったか。
 
エコーというのはそういう風に、教えてもらえなかった既往歴を聞き出すツールとして有効なんです。
 
すると一般論ではなくてもう少し個人にあわせて考える必要がでてくる。
恐らく卵の数は決まっていますから、片方しか残っていない卵巣はそれを使い果たしつつあり早期に閉経する可能性はなくはないと思いましたのでそう伝えたところ、患者さんは少し早い更年期が来るのかどうか気にしていました。
 
「どうして更年期症状jが起きるのですか?」と患者さんが聞きました。
突然女性ホルモンがなくなると、視床下部から性腺刺激ホルモンを分泌させるホルモン(GnRH)が出るんですがそれがフラッシュの原因なんです、と答えたところで・・・
「しかし、あなたはもしかして更年期症状を全く感じていないのではないですか?」と私は聞きました。
「はい、一切ありません」と患者さんは答えました。
「恐らくあなたの女性ホルモンは他の女性とは異なり突然出なくなったのではなくて徐々に減ってきたのではなかろうかと思いました。だとすればあなたの視床下部からは大量の刺激ホルモン(GnRH)は出ないはずで、更年期の症状が出ていないのではないかと思ったのです。あなたは今、代謝異常がないようだし、症状もないので、積極的に補充療法をするメリットはあまりないかもしれない。骨量などはわかりませんが。先ほどとはニュアンスが異なる事を申しますが、あなたの場合は気にしないで良いように思います。しかし詳しい先生はYクリニックのK先生で木曜日におられますから、質問があったら私から聞いたといって受診してみて下さい」
 
K先生は私が内視鏡をしている先生で、とてもいい方で補充療法に詳しい婦人科の先生です。

ちなみに卵巣を片方切除した患者さんは、個人的な経験では更年期症状を経験しない方が多いです。
 
という風に、急性胃炎で受診されても、エコーがあるとこういう感じで話が進んでいくわけです。
 
 
話題が2つまでだとまだ良いんですが、こういう話題が3つ、4つになると患者さんが覚えきれなくて、結局あんまり意味がなくなるという悲劇がおきます。